料理人からソムリエの道へ
ミュージシャンになる夢を持ちながら、親の勧めで辻調理師専門学校へ進学するために愛媛から大阪へ上阪した国本幸延さん。ですが、入学2年目に留学したフランスで、早くも料理人の夢を諦めることになります。
「現地のフランス料理が驚くほどおいしくて純粋に食べるのが好きになりました。と、同時にそんな甘い世界じゃない事がわかって、周りはミシュランを取れるシェフになりたい人たちばっかり、そういう意識がないと生きていけない世界。そこで、僕はサービスの方がむいているなって思ったんです」。
卒業後、大阪の有名ビストロで勤めるも、シェフを目指していなかった国本さんは飲食業を辞め、一時は音楽活動に主軸を置く事に。そこから数年、今後の運命を決定づける出会いがありました。
「ワインはやっぱり好きで、勉強しようと思って手にした『ワイン大全集』に大阪は法善寺横丁の[wasabi]が載っていたんです。その時ちょうど、母親からも近況を心配する電話があって。その直後に開いた雑誌にお店の求人が載っていて。もうこれは、面接に行くしかないって覚悟を決めてお店を訪ねました」。
見事、面接に合格し入ったそのお店は、2008年当時には珍しくワインセラーの中すべてがナチュラルワインでした。ワインの知識のない国本さんは、オーナーからソムリエ資格を取ることを勧められ、必死で勉強し2年後には資格を取得。その後、オーナーたっての希望でオープンした自然派シャンパーニュ専門のバーの店主を任されました。
「初めはシャンパーニュの違いもよくわからなかったのですが、勉強し始めるとブドウ品種や生産エリアも単純明快ですごく覚えやすい。気がつけばすっかりどハマりしていました」。
ナチュラルワインの世界
2017年に独立、特別な日だけじゃない日常的に楽しめるシャンパーニュと、ナチュラルワインのお店[シャンパーニュと自然派ワイン hapo]を谷町六丁目にオープンしました。そんな国本さんにズバリ! ナチュラルワインの魅力を伺いました。
「品種や地名などはラベルを見てわかるんですけど、大切なのはそこじゃないんです。ナチュラルワインは野生酵母でできていて言わば、農家の農作物。良いワインを作ろうと思ったら良いブドウが必要、良いブドウを作るためには良い土が必要、そして良い土には微生物がたくさんいる、農薬や防虫剤を使わないためには虫を食べる鳥がいる、鳥がブドウの実を食べ過ぎないためには猛禽類の動物もいる。そして、害虫を食べるコウモリも必要で、コウモリは超音波を感じて飛んでいくから高低差の樹木のある森のような場所じゃないとダメなんです。おいしいワインを作るためにはすべてのことが繋がっている。そしてその作り手の皆さんは、生き方や地球環境、未来の子供達のことを思うパッションのある人たちばかり。ナチュラルワインは野生酵母の発酵エネルギー、地層のミネラルエネルギー、栽培農家さんのパッションとすべてが入ったパワーがある飲み物なんです」。
ラベルからは見えないところに魅力があり、心に響くワインを飲んで人生観や価値観さえ変わったと話す国本さん。さまざまな想いを繋ぐべく手元に届いナチュラルワインは、そのストーリーごとお客さんに伝えることを使命とさえ感じているそうです。
“サードプレイス”イベント
“近所の人たちが会社帰りの気分転換に立ち寄る店”を目指す、地域愛も深い国本さんは、2018年から[らくだ坂納豆工房]伊戸川浩一さん[鮨 三心]石渕佳隆さんらと共に、地域の交流の場として年に一度『銅座モーニング』というイベントを主宰しています。
「地域の人に愛されるお店をしたいのに、それぞれのお店が子様連れNGだったり、お酒を扱っていて家族で行きにくかったり。でも、本当は地域の人にどんな人がお店をやっているのか知ってもらった方が良いと思っていて。イベントをすれば、お店の紹介もできるし。普段のスタイルとは違うけど、“安くおいしくて楽しくできる時間”を作りたいねって話になりイベントを始めました。そして家族で楽しめるようにと開始時間は早朝から、最初の頃は学校の夏休み時期に、今は春休みに開催しています」。
近隣の20軒が各店舗で、その日限りのフード販売やワークショップを行なうイベントは年々参加者が増え、午前6時半から午後10時ごろまでの4時間程度のイベントに今や何百人もの人が訪れるほどに。
「あるお客さんに『地域の人同士が交流できて幸せなひと時を過ごせる、家でも職場でもないみんなが集まれる地域のサードプレイスになったね』って言ってもらって。こんなイベントができるのも、この地域ならではだと思うんです」。
それぞれに個性があり地域を想うパッションのある店主が多い街だからこそできるイベントと話す国本さん。今年5年目を迎える『銅座モーニング』は、人と人が顔を合わせて繋がることができる、今や地域の人たちの心の拠り所となるイベントになっています。
なにわのみやと私
より一層、地域の横の繋がりができると良いですね。
「難波宮は、犬の散歩で毎日のように通っています。都会の中にあって、地域のオアシスのような難波宮は、近所の人とっては大きな庭なんですよね。そこでご近所付き合いができて、仲良くなった方がお店に来てくれたこともあります。難波宮と同様になノにわも、庭でゴロゴロしたりシートを敷いて本読んだり、それぞれが自由に良い時間を過ごせる場所になって欲しい。同時開催でモーニングイベントをするのもいいですね。難波宮からも歩いていける[Wine Shop SAPO]はお店の垣根を超えて、“みんなのワインセラー”として進化させたいと思っています。近所には、ワインがあったらいいのになぁ~っと思う飲食店が数軒あって。そこを利用する人は、持ち込み料を支払えばウチで買ったワインが飲めるみたいな。それって横の繋がりがあるこの街だからこそできることだし、やってみたい」。